出村雅俊 写真展「王国」

砂丘という異界

出村雅俊写真展「王国」

 

 植田正治、塩谷定好、田賀久治をはじめ、鳥取砂丘を撮影の舞台とした写真家は枚挙にいとまがない。今この瞬間にも誰かのカメラに収まりつつ、それでもなお撮り尽されているという印象を与えないのが鳥取砂丘の凄みである。県内随一の観光名所は、当地きっての被写体でもある。

 そしてこのたび、新たな砂丘のイメージを結ぶ作品群が現れた。8月24日よりギャラリーそら(鳥取市)で開催される出村雅俊写真展「王国」がそれである。

ここでは、2012年から16年にかけて、真冬の鳥取砂丘で撮影された作品が展示される。それらが示すのは、雪に覆われ、強風に晒され、雪煙が立ちのぼる大地のありさまだ。吹雪の日の撮影が多かったというが、風に飛ばされた木の枝や降りしきる雪は、自然界の容赦のなさを見る者に突きつける。そこに、我々に馴染み深い鳥取砂丘の面影はない。

生命の気配が途絶え、場所を特定させる手掛かりも失った砂丘の姿に、出村は「王国」というタイトルを冠した。彼はそこに、我々の社会秩序とは無関係に存在する領域、人間の尺度が及ばない力に支配された異界を見出したのだろう。もっとも、危険を伴う冬季の撮影行を繰り返した作者の心の中にも、厳しく強いものがあったことが察せられる。何人も踏み込むことのできない自己の内面と、自律するエリアとしての砂丘が、本作では王国という名のもとに二重写しにされている。

また、この連作のうちには、雪景に日が射す瞬間も捉えられている。それは、荒涼とした地に不意に訪れた吉兆のような、象徴的な美しさも湛えている。身近な対象の知られざる相貌に光をあて、その魅力を拓いていくことは、現代写真の醍醐味でもあろう。ぜひ、多くの方々にご覧いただきたいと希望している。

 

(竹氏倫子・元鳥取県立博物館主任学芸員)

 

◇出村雅俊写真展「王国」

 会期:8月24日(木)~29日(火)10:00~18:00(最終日は16:00まで)

 会場:ギャラリーそら(鳥取市栄町)

 

 

作品キャプション:出村雅俊《王国》より  2012-16年