福井 一尊 Fukui Isson
福井一尊は金属造形を主軸に、映像なども併用しながら、容易に一括りにできない多彩な表現活動を行ってきた美術家である。蝋や金属を使った少々トリッキーな外観の作品や、空間をぜいたくに使った斬新なインスタレーションが記憶に新しいところだが、制作者としての福井の意識は、たとえば「立体造形が担うべき表現課題とはそもそも何か」、あるいは「一個人と社会とをつなぐことがアートに可能か」などといったように、実にオーソドックスなところに向かっている。そんな福井の次の展開は、シンプルな写真表現のみによるプロジェクトで、その名も「さんいんびより」。鳥取・島根両県の全市町村をひとつひとつ訪れるなかで、福井の感性にひっかかった光景を絵画的に切り取るのだという。
福井は私に、「まちのてざわりをうつす」と言った。その触覚的思考はやはり、実素材の質感にこだわる造形家ならではのものと言っていいだろう。そして作品化された光景の背後には、「隣町の風景に関心を示さない、ある種孤立した社会に対してアートはどう向き合うべきか」という福井の問題意識が見え隠れしているように思う。
鳥取県立博物館 学芸員 三浦努