J・トーサキ油彩展

▲Drawing  75×56

J・トーサキ油彩展に寄せて

  J・トーサキの個展は十年ぶり、二十七回目となる。ここ二年間に制作された油彩作品三十点、パステルのドローイング二十一点が展示される。

 トーサキの油彩作品をあえて分類すれば、具象画ではなく抽象画なのだが、反自然的な表現ではない。生まれ育った鳥取県西部、とりわけ大山周辺の自然との対話から抽出された造形要素で組み立てられた、独自の「風景画」と言ってもよいだろう。

トーサキは「私の油彩の仕事は、画家木村忠太の『魂の印象派』の水脈につながっている」と述べている。だが事実としてトーサキの仕事場は光溢れる南仏にはない。彼の油彩作品にはさまざまな階調の日本海の青がたゆたう。土の匂いのする茶色がある。そこには忠太的な絵画宇宙に潜入しながらも、自身の「表現」を求める(時に格闘の趣きを呈する)探究の成果がある。

 今回の展示でメインとなる三十号サイズの作品は、そのほとんど全てに正方形の画面が採用されている。横長の画面では、ありふれた風景の構成感覚でまとめ上げてしまう危惧があるということは容易に推測できる。それを回避しながらの色面と線の構築作業に妥協は許されない。描画は破綻と紙一重のところで昇華されているように見える。

 パステルによるドローイングの連作は、描画材の特性がよく活かされ心地よく共鳴できるゆとり感がある。有機的生命的なものを暗示する線描にも魅かれる。描きたいものを描きたいように自由に描く。明快だが本当は至難の実践がドローイングでは試みられているのではないか。

 J・トーサキ、七十二歳。今後の挑戦が楽しみである。

 フナイタケヒコ(美術作家))

2023年11月2日付け 日本期新聞 文化欄